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「お前に見せたいものがある」
食事を終え、帰り支度を整えると、夜の海へと散歩に連れ出される。
海沿いの散歩道はデートコースの定番なのか、私達以外にも男女のペアがちらほら見えた。
潮風は火照った身体を、潮騒は頭を徐々に冷静にしてくれる。
一色社長は夜景には見向きもしない。
レストランから連れ出されたのは夜景を見せるため……というわけではなさそうだ。
金色の瞳に映るのは、深い闇ばかりか。
やがて、小さな公園に到着したところで一色社長の歩調が緩み始めた。そして、遅れること3歩半の距離を歩いていていた私を振り返る。
「恋人はいるのか?」
潮風で乱れた髪を耳に掛けながら観念して答えた。
「……いたら、こんなところまでノコノコついてきたりしません」
なぜ、こんなカップルだらけの場所で独り身の寂しさを答えなければならないのか。
ガーデニングが趣味の地味女を好いてくれる男性などそうそういない。
「そうか。それなら問題ないな」
一色社長はジャケットの内ポケットから、可愛くラッピングされた長方形の小箱を取り出して私の前に差し出した。



