「あのう……帰りはどうするつもりですか……?」
「明日にでも取りに来る」
一色社長はこともなげに言ったが、私の頭の中は季節外れの台風に襲われたように大混乱に陥った。
(車がないってことは……どうやって帰るの……?)
ゲスい想像が頭に浮かんで、お肉を運ぶ手が止まってしまう。
このレストラン、隠れ家的雰囲気を醸し出すために近隣の駅から結構離れた立地にある。
歩いて行ける距離に周辺にあるのは、住宅と、海と……。
……男女が一晩過ごすためのお宿だけだ。
(まさか……最初からそのつもりで?)
食べ物を餌にここまで連れ出して、力ずくでそういう関係に持ち込もうって魂胆なのか?
ほいほいついてきてから言い訳するのも癪だが、そこまでの覚悟があるはずない。
(ど……どうしようっ!!)
コース料理ももう終盤、あとはデザートを残すのみ。
タイムリミットは刻一刻と迫っているというのに、私ときたら今日の下着の色すら思い出せない。