「……これから一色社長と食事に行くのでしょう?」

「ご存知だったんですか?」

誰から聞いたか分からないが、食事に行くということを知っていたのならそれは反則である。

「お待ちかねの一色社長ももうじきやって来ますよ」

賀来副社長はからかうように小声で言うと、握った拳の親指でエレベーターを指差した。

……誰よりも一色社長に近い所にいる賀来副社長なら、食事に誘われた理由が分かるかもしれない。

失礼を承知で、意を決して尋ねる。

「あのう……こんなことを副社長に聞くのはおかしいと重々承知しているのですが……」

「はい、どうぞ。なんでも聞いてください」

人好きのする笑顔につられるようにして、自分の思いを吐き出してしまう。

「一体、一色社長はどういうつもりなんでしょうか……」

私はまだ……金色の瞳を持つあの人の前に立つ勇気をいまいち持てないでいる。

一色社長は、どんな劣勢も跳ね返す強さと、周りのものが霞んでしまうような圧倒的な輝きを常に放っている。

そんな人に、無条件に好意を持たれるということは、喜ばしいことでもあり、怖いことでもある。