(ダメだ……。これ、断れないやつだ)
一色社長は意地でも私を食事に連れていくつもりである。
不運なタイミングで電話を取ってしまった己を呪う。
“他に問題でもあるか?”
「ありません……」
“仕事が終わったら、地下駐車場で待ってろ。迎えに行く”
一色社長は嘘をついたことを怒るでもなく、淡々と待ち合わせ場所を告げると電話を切ってしまった。
(迎えに行くって……)
……私は一体どこに連れていかれてしまうのだろうか。
ツーツーと通話が終わった音を聞きながら、私は呆然とその場で立ち尽くす。
「ゆうりーん?」
「受話器なんか持ったままどうしたんだ?」
コンビニのビニール袋をぶら下げて営業部に戻って来た雪菜と二葉が声を掛けられると、ようやく正気に戻ることができた。
「ううん、何でもない!!ま、間違い電話だったみたい……」
そう言ってなんとか誤魔化すと、手汗だらけの受話器を静かに置いた。
一色社長と食事に出掛けることになったことを、雪菜と二葉に相談できるはずがない。
……この電話のせいで午後の仕事に身が入らなかったのは言うまでもない。