私は受話器を持った姿勢のまま硬直してしまった。

(もしかしなくても……ふたりきりだよね?)

金色の瞳をしたあの人と同じテーブルに座ることを想像しただけで、ぶあっと背中から汗が噴き出てくる。

(やだ……。なにこれっ!!)

食事に誘われただけなのに、まるで沸騰したみたいに身体中が熱くなった。

“どうした?”

一向に返事がないことに焦れたのか、一色社長から更なるプレッシャーがかかってくる。

「い、いえ!!食事に誘われるとは思っていなかったので……!!」

堂々と社用電話を使って食事に誘われたのは初めてである。

まさか、最初からそのつもりで電話をしてきたということなのか?

“それで、行くのか?行かないのか?“

返事を急かす様は、まるで獲物を狙うハンターのようである。

私は断る口実を必死になって探したがとっさに思いつくはずもなく、しどろもどろになってしまう。

「あの……私っ……そのう……。そう!!水やり!!鉢植えに水やりしなきゃいけないんです!!」

我ながら名案だと思ったが、一色社長に拙い嘘など通用するはずもない。

“水やりなら家に帰ってからすればいいだろう?それとも、お前のアパートの鉢植えは決まった時間に水をやらないと枯れる特別仕様なのか?”

「い、いえ……そんなことはありません……」

嘘をあっさりと見抜かれてしまい、シュンと身体を縮こまらせる。