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「オムライスひとつ!!」
雪菜はいつも通りオムライスを頼み、私は日替わりのランチセットを注文した。
ランチタイムのカフェテリアは非常に混んでいて、カウンターから見えるキッチンも修羅場と化していた。
このカフェテリアのキッチンチーフも元クラウディアの国民だという話だから、驚くほど徹底している。
「本当に変わった会社だよね……」
ランチセットを口に運びながらしみじみと呟けば、ごもっともな指摘を雪菜からもらう。
「何言ってんの?自分だってその変わった会社の一員でしょ?」
「だって覚えてないし……」
「そうだった!!ゆうりんは“覚えていない”方の人だっけ」
4人掛けのテーブルからカフェテリアを見渡せば老若男女、様々な年代の人が集まっている。
この2週間で私が最初に学んだのは、先入観にとらわれてはいけないということ。
あのロングヘアが素敵な虫も殺さなそうな可愛い顔をした受付の女性。
……クラウディア時代は泣く子も黙る女盗賊としてご活躍だったとか。
隣のテーブルで蕎麦を啜っている定年間近のひょろっとした体格の壮年の男性。
……かつては剛腕でならした格闘家だったそうだ。
社員の数だけ、前世がある。
夜空に煌めく無数の星のように、クラウディア王国があった痕跡は人々の記憶の中にいくつも残っている。
けれども、私にはその痕跡が全くと言っていいほどない。