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副社長室の重厚な扉をノックすると直ぐに返事があった。

私は呼吸を整えると入室の意を伝え、待ち構えていた副社長に用件を告げた。

「榊さんを営業部に案内してまいりました」

「ありがとう、夏八木さん。色々と手間を掛けさせたね」

「いいえ。とても楽しかったです」

……そう。

彼女はリリア様の生まれ変わりであり、一緒にいて楽しくない訳がない。

かつて主人と侍女という関係性の中に、親愛の情が含まれていたことを榊さんは知らない。いや、知らなくていい。

これから、私が副社長に直訴することは単なる余計なお世話なのだから。

「よろしいんですか?一色社長が留守の間に彼女の配属先を勝手に決めてしまって……」

「仕方ないよ。何をどう説得しようが、“傍に置く”の一点張りだったからね」

「私もてっきり秘書課に配属させるものと思っていました」

副社長が一色社長に相談もせず、独断で物事を決めることなど今まではありえなかった。

失われたものと思われていたリリア様……榊さんという存在の発見がもたらす影響の大きさを私は未だに測りかねている。

彼女に危害が及ぶようなこと、とりわけ“心”が損なわれる事態だけは絶対に避けなければならないという義務感が再び質問を投げかけさせた。