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「沢渡営業部長!!」
営業部フロアの入口で夏八木さんが大きな声で叫ぶと、一番奥のデスクに座っていた男性がのんびりと立ち上がった。
「はいはーい。そんな大きな声出さなくても聞こえてるよー」
急ぐでもなく、慌てるでもなく、マイペースを貫く姿勢は見習いたいものがある。
年頃は30代後半だろうか。
無精髭に長めの髪をふたつに分けて流した髪型はさながら昼行燈風である。
「営業部の沢渡部長です。しばらくはこの方に色々と教わってください」
「よろしくお願いします」
「はい、どーも」
形式的な挨拶は軽くいなされた。
「何か困ったことがあったら、いつでも遠慮なく相談してくださいね」
上司となる人に引き渡されその役目を終えた夏八木さんは、去り際に小声で耳打ちをして帰っていったのだった。



