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……一色社長は勝手な人である。

勝手にやって来たかと思うととんでもない置き土産を置いて、これまた勝手に帰って行った。

(それでも憎めないんだよなあ……)

その証拠に今しがたプランターに植え替えたばかりの苗たちが、一斉に一色社長を恋しがっている。

この子達に好かれる人に悪い人はいない、が私の持論である。

(元夫か……)

ベランダから夕陽を眺めていると、あの金色の瞳を思い出してどうしようもなくなる。

“覚えていないなら、俺が思い出させてやる”

私を射抜く力強い瞳はこのカモミールの苗のように若々しい生命力に満ち溢れていた。

(もう少しだけ……あの人の金色の瞳を眺めてみたい)

この気持ちは私の前世からくるものなのか。

……今は、まだよく分からない。

クラウディアに入社すれば分かるようになる日がやって来るのだろうか。

その夜、私はテーブルに置いておいた封筒を開けると、決心が鈍らないうちに八木さんに言われた通り契約書にサインを済ませたのだった。