「そういう反応をするってことは、本当に何も覚えてないんだな」
「すみませんね。覚えてなくて」
これっぽっちも悪いと思っていないが、あえて謝ってみせるのは単なる嫌味である。
ちょっとくらいの意地悪してもいいじゃないか。
私は今日一日怖い想いをしたんだから。
「ったくよ。こっちは散々探してたっていうのに呑気なもんだな?」
「いひゃいっ!!はにゃしてください!!」
一足飛びに距離を詰められ両頬をお餅のように引っ張られたのは、全くの不意打ちだった。
唇ばかりに気を取られ、注意を怠ったせいである。
「まあ、覚えている奴もいれば忘れている奴もいる。お前だけじゃない、気にするな。それに、大事なのはこれからだ」
一色社長はパッと手を離すと、今度は真っ直ぐ私の眼を射抜いた。
「……覚えていないなら、俺が思い出させてやる」
黒色のコンタクトレンズをしているはずの瞳が、輝くばかりの金色に光ったように見えた。
“この眼を見ても、まだ思い出さないのか?”
金色の瞳を直に見ても何も思い出せなかったにも関わらず、一色社長は私のことを王妃様の生まれ変わりだと思っている。
往生際が悪いのは、自分が元王妃だと認められない私なのか。
それとも、頑なに元王妃様だと言い張る一色社長なのか。



