アパートの正面入り口。
外装がはがれ金属が剥き出しになってしまった階段の前に佇んでいる人物を発見した瞬間、絶句してしまった。
「一色……社長……?」
景観と不釣り合いな高級そうなスーツをお召しになっているのは、アパレル企業の社長ならではなのか。
「遅かったな」
待ちくたびれたと言わんばかりの不満顔を見ると、わなわなと唇が震えてきた。
「どうやってこのアパートに……!?」
「んなもん、履歴書に書いてあるだろうが」
至極当然のごとく、プライベート満載の履歴書を渡してしまった自分が悔しい。
「こ、個人情報!!」
「知るか。文句なら賀来に言っとけよ。お前の履歴書をデスクの上に置きっぱなしにしてたのはあいつだぜ?」
(だからって普通、ここまで来る!?)
この状況下で開き直れる神経も分からない。
これも前世の記憶の賜物だと言おうものなら、ストーカーだと言い張って警察に突き出してやる。
「賀来から大体の話は聞いたか?」
一色社長はそう言って、一歩ずつ私の元へと近寄って来る。
「一応、はい……」
まあ、話を聞いたからって一色社長の振る舞いを許せるはずはない。
私は一定の距離を保つように一歩ずつ後ずさり、念のため契約書が入った封筒で唇を隠した。



