「私は元王妃でも、リリア様でもありません。榊……優里です……」

ずっと榊優里として生きてきたというのに、突然王妃様の生まれ変わりでしたなんて言われて直ぐに納得できるはずがない。

「たとえ何も覚えていなくても、あなたがリリア様だということは揺るぎのない事実です」

辛うじて絞り出した否定の台詞さえ賀来さんにすげなく却下されてしまった。

(もう……どうしたらいいの?)

途方に暮れていると、先ほどのように夏八木さんが手を差し伸べてくれた。

「椅子に座りませんか?床は冷たいでしょう?」

他人を落ち着かせる笑顔に慰められ、もう一度改めて椅子に座り直すと、これまで沈黙を守っていた夏八木さんまでもおかしなことを言い出す。

「一色社長はもちろん、我々も再びあなたと相見える時をずっと待っておりました。リリア様、どうか否定されないでください」

(“我々も”……?)

賀来さんが続きを引き受けるような形で、更にクラウディアの驚くべき秘密を打ち明けていく。

「現在、株式会社クラウディアには273名の社員が働いております。全員、クラウディア王国の元国民です。かつての国民たちは、容姿、年齢、性別さえも超越し、数百年の時を経て、現代では企業という共同体のもとに集っております。社長に元国王であるあの方を戴いてね」

私は今度こそ卒倒してしまうのではないかと思った。