「あの……一色社長が私の元夫というのは一体どういうことなのでしょうか」
滑稽な質問であることは重々承知の上である。
もちろん、私は誰とも結婚した覚えはないし、ましてや離婚した覚えもなかった。
突然、前世のことを持ち出されても夢かお伽噺か妄想の類、あるいは小説や映画の中の出来事としか認識できない。
正直、一色社長の頭はイカレているとしか思えない。
それでも、私は彼が紡いだ言葉の意味を知りたかった。
……彼の瞳が金色に輝いている理由を問いかけずにはいられない。
「あなたは……クラウディアという国をご存知ですか?」
(また、“クラウディア”だ……)
ここ数日、“クラウディア”という単語には翻弄されっぱなしである。
「すみません……。私、地理には疎くて」
「知らなくても無理はありません。クラウディアという国は現在この世に存在しておりません。遥か昔に世界地図から姿を消した亡国です」
「亡国……?」
「ええ。クラウディアに関する書物はほとんどなく、その歴史を知る者はごくわずかしかおりません」
「はあ……」
賀来さんがもったいぶっているせいか、話はちっとも進んでいく様子がない。



