(前世の夫……)

おっと、OTTO、オット……。

ダメだ。日本語変換機能が途端に上手く働かなくなる。

「あなたが私の前世の夫?」

「忘れたとは言わせねえぞ」

念には念を入れて確認してみたが、困ったことに一色社長は本気のようだ。本気と書いてマジと読む。なんて性質が悪いんだ。

もちろん、前世の夫などという戯言を信じる気など毛頭ない。

悪い冗談でしょう、と笑い飛ばすのは簡単なことのように思えたけれど、私を射抜く金色の瞳がそれを許さない。

「リリア」

一色社長は私を見つめながら私ではない人の名前を愛しげに呼び、再び顎を上に向けさせた。

偽りばかりを並べ立てられている中、固く握られた手の強さだけが本物だった。

(……違う)

私の名前は優里だ。

リリアなんて人は知らないし、“レオンハルト”という名前も初耳だ。

そうだ、人違いに決まっている。だから、もう解放して欲しい。

一色社長が確信を持っているからこそ、余計に怖くなる。

「今度は避けるなよ?」

……金色の瞳に魅入られたら最後、きっと誰も逃げられない。