「ええええ!?」
(蹴った……!?今、間違いなく蹴ったよね!?)
私の頭の中は男性の思いもかけぬ行動に混乱し始めた。
(え、なに?どういうこと?私、なんか怒らせた!?)
お守りのようにリクルートバックを胸に抱えていると、男性はあっという間にその距離を詰め、ぽかんと呆けている私の顔を手でクイッと上に向かせた。
そして、問答無用で顔を近づけてくる。
もっと正確に言うのならば……私の……唇を狙って……。
「き……きゃああああああああああ!!」
身に覚えのある行為に私は思わず悲鳴を上げる。
おまけにご尊顔を近くで拝見したことによって、更なる衝撃の事実が発覚する。
(思い出した……!!)
何で一目見た瞬間に気がつかなかったのだろう。企業案内にでかでかと写真が掲載されていたではないか。
「い、一色玲央!!」
……アパレル業界の風雲児は私の悲鳴の大きさに思い切り顔をしかめていた。



