クラウディア王国が誇る豊かな緑林は荒涼としていた。

さわさわと心地の良い音が鳴る気持ちの良い木陰を作っていた樹木も。

いつもは顔を出す可愛らしい動物たちの声も。

爽やかな雨水を運んでくれた川も。

……今や、本来の姿を思い出すことが難しい。

クラウディア王国の首都、カルバの北西に位置する“ささやきの森”は数時間の内に変わり果てた姿となってしまった。

(何てひどい……)

あまりの惨状に思わず目を覆いたくなる。

“ささやきの森”がこの様子ならば、周辺に居を構えていた民も無事ではいられまい。

クラウディア王国と隣国メナード王国とを分かつレテ山の中腹から噴き出したマグマは、“ささやきの森”だけでは飽き足らず、いまなお凄まじい速度でカルバに向かっている。

(急がなければ……)

こうしている間にも、愛する人達の身に危険が迫っている。

間に合わなければ……何もかも失ってしまう。

この国の王妃として私にできることはひとつしかない。

逃れようのない運命ならば、せめて自分からを受け止めようと、キッと顔を上げ覚悟を決め両腕を広げる。

「お願い!!皆を守りたいのっ……!!」

この地に生きる全てのものたちのため、何もかもを投げ捨てひたすら乞い願う。

(お願い!!力を貸してっ!!)

ささやきの森の樹木たちに僅かでも力が残っているのならば……。

どうか、力を貸してほしい。

守りたいの。

……この国を。

……あの人を。

たとえ、自分の命と引き換えにしても。