「ジュリアン、ちょっとツラ貸せよ」

遠くで放課後を報せるチャイムがなる頃、同じクラスに生息してる云わばジャイアンみたいな奴が、これまた絵に描いたように厭らしい笑みを向けて俺の机に足を置く。2年間使われ、1度も洗われてないだろう黒ずんだ上履きが目の前に佇んだ。
ジャイアン(敬称)は、その体勢のまま俺の顎を引っ掴み、無理矢理目を合わせてくるのだ。なんとも横暴なヤツ、嫌いだ。

しかし俺は、「その汚い足をどけろ」とも、「気色悪い手を離せ」とも言えず、ヘラヘラと弱気な笑みを返すのみである。


高校生活3年目。父の転勤でこの高校に転校してきたのは一週間前の話。以前は国際交流の盛んな全寮制の高校に居たのだ。母が泣いて、父について行ってほしいと言わなければ今も向こうの学園でのうのうと生活してたのだろう。
反して、道徳の欠片もないこの底辺学校は、一時的に入学させられたとはいえキツイものがある。
転校初日は名前でからかわれ、日本語わかりますかと馬鹿にされた。
つぎの日には馴れ馴れしく肩を組まれ、お前綺麗な顔してんななんて、空手部の首相とかいう奴にしつこく迫られた。その日の内に男でもいい、付き合えと言われ、平手打ちを御見舞したのはまだ記憶に新しい。
そのつぎの日は、それが災いし、面白がった馬鹿どもが固まって無理矢理引っつけようとしてくるのだ。面白半分、本気半分、男のゴツイ腕に抱き締められたのは思い出すだけで悪寒がする。
これが可愛い女の子なら良かったのだが、この高校にはアイプチにつけまつ毛を重ね、授業中にスマートフォンで自撮りしてるような女しか存在していない。何とも物悲しい。どっちに転んでも俺にとっては天敵である。

そんな事があり、今現在も奴らの中では俺を口説くゲームが広まっている。いじめのような執念深いものではない。ただ、俺の反応を見て楽しんでいるのだ。

毎日毎日飽きずにやってくるのだ。


特にこのジャイアンは。