家族じゃなくなった日。



コトッ。

不意に、私の机にコーヒーが置かれる。


「ーー調子はどうだ?」


「……藤田さん!」


初めて藤田さんに入れてもらったコーヒー私はにそっと手を添える。

指の先にジーンと暖かさが伝わってくる。


「…ありがとうございます!」


「ーーいや………。それより、明日のプレゼンの準備の方はどうだ?順調か?」



「はい!計画通りです。」


「…そうか。」


私は思っいっきりの笑顔で返事をした。


「…俺は先に帰るよ。どうやらさっきから体の調子が悪くてな。」

そう言うと、藤田さんは自分のデスクの上に連なっているダンボールの2段目からカバンを取り出す。


「大丈夫ですか??」

よく見てみると、顔が赤くなっている。



「…ああ。山本も早く帰れよ。夜、遅いし。」



「…はい、ありがとうございます。藤田さんもお気を付けて!!」



足をもたつかせて歩く藤田さんに私は不安を覚える。


「こけなきゃいいけど…。」



それにしても、どうしてダンボール箱からカバンが出てくるものか。


不思議でたまらない。

彼のダンボール箱は異次元に繋がってでもいるのだろうか?



そんな事を思いながら、私も自分の帰り支度を済ませる。



もちろん、藤田さんに入れともらったコーヒーは残さず飲んだ。



それにしても、会社のコーヒーは食堂以外どれもインスタントよ筈なのに、何故かいつもより美味しく感じた。


何か入れるのにコツでもあるのだろうか?

今度、藤田さんに聞いてみよう…!


「お先に失礼します!」


「はい、お疲れ様~!」

隣の席の佐藤さんに挨拶をしてそっと会社を出る。


今日はヒールの低めのパンプスで来た。

またいつ藤田さんに駆り出されるか分かったもんじゃないから。



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しかし、次の日。


事件は起きた。





「………………………ない。」

自分でも分かるほど血の気が引いていく。


「どうしたんだ?」


私の後に出勤してきた藤田さんが私のパソコンを除く。


私は右手でマウスをクリックをする。


クリック、クリック、クリック…。

「…プレゼンの企画書は、全部この中にあったんだよな??」


「………はい。」



クリック、クリック、クリック、クリック…。








「…………まじかよ。」




私のパソコンは起動して何秒か後、画面の映像が変わらなくなっていた。