家族じゃなくなった日。


■ ■ ■ ■ ■ ◼︎ ◾︎▪︎...


「ーーこっちのやつは後でいいから、先こっちしてくれる?」


「はい!」

「あと、これなんだけど…」

「はい。第二部の構成の変更でしたよね?もうやっておきました。」


「ありがとう。助かるよ。」





私と藤田さんとしているプロジェクトは最終段階にかかっていた。


「いやぁ〜、優香ちゃん!なかなかいいコンビじゃないのっ‼︎ プロジェクトもいい方に進んでるんだって⁇これは、将来の旦那さんも決まったも同然じゃないの‼︎」


隣でずっと私たちのやりとりを見ていた佐藤さんがコソコソ藤田さんに聞こえないように耳元で言ってくる。


「私たちはそんなんじゃありませんって、前も言ったじゃないですかっ。」


ちょっと照れくさいながらも、返事をした。


佐藤さんは〝どうだか〜〟って感じで横目でニヤニヤと見てくる。



「ち、違いますからね‼︎…ちょ、ちょっと、飲み物とってきます。」


ーガタッ。


私はコーヒーを取りに行った。


だが、女子社員の固まっているデスクの間を通るとき、一斉に椅子を後ろにして見られた。


どうやら私を通らせてくれないらしい。


仕方なく私は違う道を通ることにした。



「ーーあ、優香ちゃんもコーヒー⁇ じゃあ、俺のも入れてもらおっかなぁ〜♪」


今の光景を見ていたのか、立花さんが私に駆け寄って来てくれた。

すると立花さんが来る前に通れなかった通路が通れるようになっていた。



「さぁ、行こっか!」

女子社員に見えないように、左目でウインクの合図をくれた。

やっぱり、あの光景を見ていたらしい。
こういう所が、女性社員の心を鷲掴みするんだろうと、心から思った。



ーーガ、ガタッ。

すると、立花さんの前に座っている人が立った。


「ーーあの、よろしかったら私が作って持って行きましょうか?」



その人は栗山桃乃さん。
聞く噂ではイケメンキラーと呼ばれていて、特にアイドル顏の立花さんに目をつけているらしい。

栗色のフワフワの髪の毛は私にはないもので、〝守ってあげたくなる子〟代表のような可愛い子だ。

あの顔で上司に告げ口をされたら残業が増えると言われていて、誰も栗山さんには口出ししない。



「ありがとう!…けど、また今度にとっておこうかな!栗山さんのコーヒーは疲れた時に飲みたくなるんだよ!」

「ホントですかぁ?うれしいですっ!」

「うん!だから、今さっきみたいな事はもうしないでね。」


そう言うと立花さんはそっとその場を離れコーヒーを作りに行った。
私も一礼して、その後を追いかけた。

立花さんはコーヒーを入れながら言った。

「ごめんね、迷惑だったかな?」

「ぜんぜんそんな事ないです!助かりました!本当にありがとうございました。」


私は深々お辞儀をした。


「そんな、気にしないで!ただ、好きな子が困ってたら助けたくなるでしょ?」

少しビックリしてから、いつもの冗談なんだと気づく。


「またまた〜!そーやって、冗談ばっか言ってたら本当に好きな人ができたとき、困っちゃいますよ⁇」

私は笑いながら答えた。


「…うん!そうっぽいね‼︎ けど、その時はガンガン押してアピールして行くよ!」

何故だか急に暑く語り出した立花さん。

「頑張ってくださいね!」


私もガッツポーズで応援をする。


ーーーーーーーーーー
ーーーーーー



その後ろで栗山さんが立って私たちの話を聞いていた。


「……ねぇねぇ、あの子、だぁれ?」

立ち止まったまま、彼女は隣の女性社員に話しかける。


「ーー山本さんだよ!最近入ってきたスーパールーキー‼︎しかも顔良し、性格良し、スタイル良しで、今この会社で一番騒がれてる山本優香さん‼︎」


「へぇ〜…。 山本、 優、 香。」

私はその名前を心に刻む。



「私よりも目立ってるなんて、許せない…。」

小声で言ったその言葉は、誰にも聞こえなかった。