時計の秒針の音だけが聞こえる。静けさの漂うこの空間の中に吐息すらも持たずそのリズムに耳を傾けている。一秒二秒と時間を追いかけ、刻まれる音だけに意識を向ける。こんなことを繰り返しながら今は時を過ごす。ただ数えるその一瞬にしか意味を持たない。もう既に生きる気力すらなかった。香川涼との別れから早二年も経とうとしている。出会った頃の彼の齢になろうとする。此処で息を止めれば永遠に自分の中の彼が年上の男のままだ、そんな良からぬことを考える。香川涼が送った最初で最後の手紙は滲んだ涙のせいで幾重のシワを作っている。もう読まない、読めば泣いてしまうことはわかっているのに、あの時のまま、時間を止めた私は、縋るように泣きつくように、彼の中に生きた自分の証明を手紙の中だけに見出す。
もうすぐ、二十二歳になる。あの時という名前をつけて思い出に出来ず浸る記憶たちをそろそろ明確に思い出せなくなってきた。彼が望んだ自分と正反対の今の私を彼はどう思うのだろうか。口づけを交わしたあの日、抱きとめた腕の逞しさに気づいた日、泣き明かす私を受け止めた夜も鮮明に蘇ることはもうない。このまま忘れてしまうならいっそう、死んでしまおうか、最近はそんなことばかり思っている。


