立ち止まってる景色がある。そこから一歩も動かずひとつの絵のように私の頭の中でずっと描かれるある光景。彼はぼんやり目を細めこちらを見てる。私は彼を見つめているのに、お互いの視線は交わらない。どちらが顔を背けているのかもどちらが向き合っていないかもわからない。或いはお互いそっぽを向いて見つめていたのかもしれない。あの私はただ彼を見ていただけなのに、それはシルエットになって、部外者や他者のような眼差しで私には見えている。あの時が彼の顔を見た最後だった。青白い顔色と雨の滴を髪の毛に纏う香川涼の姿。きつく結んだ唇はすこし切れて血の赤が端から見える。どれだけ強くなにも言わないようにしたのか、彼の意思と私の何もできない無力に彼は泣きそうに見えた。泣いているのは彼ではなくきっと私なのに、不器用な笑顔を作る香川涼が叫ぶように泣いていた。
『玲、すげぇ好き』
漸く唇を開いた彼の言葉に今度は私が声をあげて泣くのだ。嬉しくて泣いているわけではなかった。悲しくて泣いていた。精一杯の彼の告白が最後の言葉になることが、なによりも、そしてどんなことよりも辛かった。悲しかった。


声が枯れるまで叫べ、そして泣け