私を安心させるように微笑む医者は、その道何十年というベテランなのだろう。
そしてこの人は、私のような反応を示す患者予備軍に、何度も接してきたはずだ。
しわがたくさん刻まれた顔にある医者の目に、私に対する同情が窺えた。

「仕事は、命あってこそできるものなんですよ」
「あ・・・」
「好きな仕事を続けたければ、まずは生きないと」

体の痛みや不調といった自覚症状が全くないから、今自分が病気だという実感も全然わいてこない。
でも、その医者の言葉で、「死」というものが今、私の間近に迫ってきているんだと実感してしまった。

私、35だよ?
35だから、まだまだ若いって思ってて。
大病なんて患ったこともない、大怪我を負ったこともない、入院もしたことない健康体だったし。
だから・・・だから、自分が死ぬことなんて、全然考えたことがなかった。

私にとって病気や死とは、恋愛と結婚と同じように縁遠いものだと思ってた。