(仮題)魔女のいるファンタジー

「ちょっと待てェ!?」

 僕は思わず声に出して突っ込んでしまった。

 部屋の北東? 北東っていうと──。
 慌てて、部屋の中に造られた小部屋に駆け込む。

「何だー? トイレか?」
 後ろからアノンのそんな声が聞こえた。

 そう、僕の部屋の北東の隅と言えば、増築によってトイレが設置されているのだった。

 もちろん僕は用を足すために駆け込んだわけではなくて、一心不乱に壁の隅にあるという古いタイルを探す。

 ──ある。
 探すまでもなく、確かにタイルはそこに存在していた。

 ちょうど便器に向かって立つと目線の高さ。
 日頃から、真っ白なトイレの壁にどうして一つだけぽつりとタイルが填められているのか、気になっていた場所だ。

 僕はメールに書かれていたとおりに、何だかよくわからない複雑な模様が刻まれたそのタイルに手をかけ、引き剥がそうと引っ張ってみる。

 しかし僕が非力なのか、意外にしっかり埋め込まれているのか、タイルはなかなか動かない。

「うおおおお!」
「おいコラ! レディがいる時に!」

 アノンのそんな怒鳴り声を聞きながら、トイレの中で雄叫びを上げ格闘することしばし、唐突にタイルは壁から外れた。