(仮題)魔女のいるファンタジー

 そしてもう一つ。
 夢界で会った白雪姫の姿には、僕も引っかかるものを感じていた。

 幼い少女という年齢に違和感を覚えたのも確かだが、何より──「印象が薄すぎる」のだ。

 夢界では、自分の中にある自我が直接姿形となって現れる。
 だから、より強く自分をイメージできる人の姿は鮮明に、逆に自分というものが曖昧模糊としているような人はぼやけた印象で、見る者の記憶に残るのだ。

 そういう意味では、魔鏡さんの自我は強烈すぎる程に印象に残っている。

 だが白雪姫はどうだろう。

 僕は彼女がどんな顔をしていたのか、瞳の色や髪の色に至るまで何一つ正確に思い出すことができない。
 つまり彼女の自我は、常人では考えられないくらい、あまりにも希薄すぎだった。

 これが「毒林檎」を半分食べたという影響なのか──確かに彼女の身には、尋常ならざる何かが起きていると考えざるを得ない。

 珍妙な生き物を見下ろすようなアノンの視線を感じつつ、しばし絨毯の上に丸まって葛藤を重ね──結局。

 まんまと魔女の策略に填った王子様は、魔法の鏡に向かって唱えてしまうのだった。