(仮題)魔女のいるファンタジー

「うわっと、初対面でいきなり呼び捨てかよナナっち~」

 握手の相手はそんな風に言って、大仰な仕草でオレンジ色のコートの肩をすくめる。

「呼び捨て?」

 ぽかんとする僕に、ちっちっち、と彼女は指を振った。

「俺ってば『鏡よ鏡カガミさん』がハンドルネームなんですよい?」

「おれ? へえ、普段も自分のこと俺って呼ぶんですか」

 僕は「俺」を普段使いにしている女の人には初めて会った。

 ちょっといいかも、と思う。

 スレた印象でも乱暴な印象でもなく、はたまた強がっている印象でもなく、目の前の女性には、「俺」が違和感なしでしっくりきた。

 僕はたぶん、どこかシニカルで格好いい「鏡よ鏡カガミさん」に、ずっと憧れに近い感情を抱いていたのだろう。

 性別はともかくとして、この実際に会った──おそらく年上であろう女性は、そんな僕の感情を何一つ裏切らなかった。

「いやん。鏡ってば、はしたなかったー? あたしって言ったほうが良いかしら?」

 ええと。

「・・・・・・どっちでもいいです。話を戻しますが、じゃあ、鏡よ鏡カガミさんさんって呼ばなくちゃいけないんですか」

 ややこしい。
 ハンドルネームに普通「さん」は入れないだろう。

 初めてこの名前を目にした時にも思ったことだが。