(仮題)魔女のいるファンタジー

 環同高に行くには繁華街の中心を抜けなくてはならない。

 夜の繁華街には人が溢れている。

 話し相手を求めて、飲み屋やレストランに向かう者たち。
 数人で路上に座り込んで話している者たち。

 誰か私とお話しませんかあ、と前方で若い女の子が声を張り上げていた。
 捕まらないように、僕は距離をとって少女の横を通り抜ける。

 こいつらは皆、蛾だ。

 繁華街の明かりに誘引され、人を求めて集まる蛾。

 鱗粉を撒き散らして飛び回る蛾の群の中を、僕は一人を保って歩き続ける。

 頭上には、眩い人工の光の彼方に、紅い偽物の夜空が広がっている。

 このギラギラした光と偽物の空は、僕に生きている実感を与えてくれた。
 ここは嫌いじゃない。

 この「街」は人といながら一人になれる場所だ。
 ここでは誰もが人と交わり、そして孤独であれる。

 でも今晩は駄目だ。
 今晩はこの居心地の良い場所に留まっている時間はない。
 もっと大事なことが──大切な友人が僕を待っている。

 街の明かりに誘惑され、何度も足を止めそうになりながら、僕は環同高を目指した。