「あら、今日はジョーイ君がゴミ出しなのね。サクラさんもしかして具合でも悪いの」

 出かけ際、ゴミを出したとき近所のおばさんと出会ってしまう。

 ジョーイは形式的な挨拶だけで済ませたかったのに、近所のおばさんは面白い話を求めるように、余計なことを聞いてくる。

 「いえ、ちょっと出張中なだけで……」といってもそれで終わらせてくれない。

「まあ、サクラさん出張なの。どこにいっちゃったの」

「いえ、その海外へ」

「うわぁ、さすがキャリアウーマンね。すっごいわ。で、どこの国? いつ帰ってくるの? どんな仕事してるの?」

 井戸端会議じゃあるまいし、まだまだ質問は続く。

 おばさんが興味津々な目をして、ふくよかな体が前のめりになると、ジョーイは圧迫を感じて重苦しくなる。

 いつまでも知りたそうに見つめる目が厭らしい。

 ジョーイには先が読めていた。

 自分が何かを言うと、きっとこのおばさんはあることないこと面白おかしく、近所の人に言いふらす。

 だからこれ以上言いたくなかった。

 自分の母親が常に好奇心の目にさらされていることを良く知っている。

 更に気に入らない感情を、抱いている雰囲気も伝わる。

 何も言わないでこのまま去ってしまいたい。

「どうしたの、なんか言えないことでもあるの?」

 しかし、おばさんの好奇心に余計に火を注いでしまい、黙っていても変に話を作られそうだった。

 するとトニーが小声でおばさんの耳元に囁きかけた。

「いやね、おばさん。言えないのには訳があって、ここだけの話なんですが、いいですか、誰にもいっちゃいけないですよ。実はサクラはアメリカ大統領の奥さん、つまりファーストレディと友達で今回ホワイトハウスに招待されたんです。ちょっと公にできないから、出張って嘘ついちゃってるんですよ」

「えっ、そうなの。すごーい。もちろん誰にも言わない言わない」

 特ダネを聞いたとばかり、鼻の穴が膨らんで興奮しながら、目の前で手のひらをヒラヒラ左右に振った。

 トニーは悪意が混じったような微笑を向け「それじゃ行ってきまーす」と元気よく言った。

「ああ、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 おばさんは興奮気味になり、他に誰かに話したいとキョロキョロしていた。