その手紙を畳んで黒ぶち眼鏡と一緒にポケットの中に突っ込む。

 キノが世話してくれと置いていった犬。

 自分の代わりとして、ジョーイに何かを残しておきたかったに違いない。

 その気持ちだけでも、心が温かくなっていく。

 ツクモのあどけない目は確実に心を癒してくれた。

「ツクモ、なんだか訳が分からないが、今日から俺が飼い主だ。宜しくな」

 ツクモは思いっきり尻尾を振って喜んでいた。

 ジョーイが歩き出すと、リードをつけなくても、ツクモはぴったりとジョーイの真横をついていく。

 そしてキノが住んでいたマンションの通りの近くに差し掛かると、寂しげな瞳で、聳え立つビルを見つめ、まるでキノのことを思い出している様子だった。

「ツクモ、キノはどこへ行ったんだ?」

 ツクモもわからないのか、目を潤わせ困惑していると言いたげに首を傾げていた

 家に着くとすでに玄関の錠は開いており、ドアを開ければトニーのスニーカーも目に付いた。

「ただいま。トニー帰ってるのか? ちょっと大変なことになったんだ」

 ツクモを玄関の中に入れ、ドアを閉めて靴を脱いでいるとき、ツクモが急に小さく唸りながら、牙を見せて威嚇体制になった。