「いや、正直顔は忘れた。だって10年も前のことだから。だけどキノみたいにその子もビー玉が好きだったんだ」

「そう。またその子といつか会えるといいね」

 キノは優しく微笑んだ。

 ジョーイは返事の代わりに、キノを見つめ口元を少し上げただけだった。

 まるでキノにアスカなんだろと問いかけている目を向けて、その返事を待っているかのようだった。
 
 話が弾んだことで二人は少し打ち解け、ぎこちなさも収まっていた。
 だが、まだまだジョーイは満足できないでいた。
 押さえられない感情が先に出て、気だけが焦ってしまっていた。

 乗り換え駅で、次のホームに向かって連絡通路を歩いているときだった。

 特別元気な声でジョーイの名前を呼ぶものが現れた。

 また騒がしいのが来たとジョーイは身構えた。
 その硬くなった背中を勢いよく叩かれる。

「痛いじゃないか。手加減しろよ、詩織」

「だって、久しぶりで嬉しかったんだもん。会いたかったジョーイ」

「久しぶりってこの間会ったばかりだろうが」

「今日はキノちゃんも一緒なんだ。嬉しい。ねぇねぇ、今からどっか遊びに行こうよ」

 詩織はジョーイとキノの手を取って子供のように振っている。

「おい、いい加減にしろ。マイナス一点!」

 ジョーイがその手を振り払うと、詩織はあからさまにぷくっと膨れた。

「やだ、またマイナスポイント? まだあれ続けてるの」

 詩織は不服とばかりにぶつぶつ文句を垂れていた。

 その時、ぐーっと音が鳴り、キノが咄嗟に自分のお腹を押さえ込んだ。
 恥かしそうに二人を交互に見る目が、眼鏡のレンズの向こうで泳いでいた。

「キノちゃんお腹すいてるんだ。じゃあなんか食べに行こうよ」

 詩織がキノを引っ張って途中下車させようと改札口に連れて行く。
 キノは恥ずかしさで力が入らず抵抗できない。
 詩織のされるがままにつれていかれた。

「おい、詩織、待てよ」
 ジョーイもこうなるとついて行くしかなかった。