そこはカウンセリングに来るためにいつも来ている場所だが、さすがにこの日は夜桜祭りとあって人で溢れていた。

 灰色の街の中で、ピンク色の桜がずらっと並んでいる光景は、一時の幻想のようでもあった。

 人々はそれを眺めるだけではなく、そこで催しされているイベントや、屋台などの店に群がって、思い思いに楽しんでいた。

 無機質な街が、この時は魔法がかかったように彩られて賑やかに心躍らされる。

 そんな中を、仲良く手を繋いだカップルが歩いている。
 それを見てジョーイはハッとした。

「もしキノとここへ一緒に来ていたらデートになっていたじゃないか」

 ジョーイは急に我に返っていた。

 しかし、自分から誘っておきながら、結局、約束を果たせなかったことは無責任で罪悪感に苛まれた。

 次、キノと顔を会わせた時、また気まずくなりそうなのが気掛かりだった。

 混雑した街の中、そんな複雑な思いを抱えながら歩くのは適してなかった。
 ジョーイは前から歩いてきた男と、この時ぶつかってしまった。

 しかしそのぶつかり方は、決してジョーイだけが責められるものではなかった。

 肩をいかつかせながら横柄に、周りのことも気にせず歩く相手にも充分非があったが、その相手が悪かった。

 いかにも堅気ではない雰囲気が漂う派手なスーツを着たその男は、見るからに敬遠したくなる。

 ジョーイもぶつかった瞬間、少しヤバイと本能的に感じとっていた。
 だからこそ素直にジョーイはすぐに謝った。