この日はどうも落ち着かず、一層一人になることを好んだ。
 休み時間も極力トニーから離れ、全ての授業が早く終わればいいとそればかり考える。

 昼休み、適当に昼食を済ませ、一人ぶらぶらとジョーイが構内に向かって歩いている時、リルの姿を見かけた。

 校舎と校舎の間の中庭で友達と話をしているが、相変わらず仏頂面は健在だった。

 それでも友達の話を聞いて、たまに首を振って相槌を打っている様子だったので、とりあえずは輪に溶け込んでいた。
 ジョーイはついリルを観察してしまう。
 そして周りが急に派手に笑い出したその時、リルの口元がかすかに上向いた。

「あいつ、今笑ったぞ。あいつもあいつなりに努力してるんだな」

 自分も変化がある状況の中、ジョーイは他人事のようには思えなくなっていた。

 リルがふいに首を動かしたとき、ジョーイの存在に気がつく。
 自然に手を上げ、遠慮がちながらもジョーイに向けて振った。
 ジョーイも躊躇することなく、手を上げてその挨拶に答えてやった。

 そのやり取りを見ていたリルの周りの友達は、その光景に目を見開き驚いた。
 リルがジョーイと友達なことが信じられないとばかりに、大騒ぎしだした。
 ジョーイはその様子を見て巻き込まれるのはごめんだと、さっさと退陣したが、リルがなんとか皆と上手くやっている姿に安心して、息が鼻から自然に漏れた。
 自分の事のように、どこか捉えてしまったのかもしれない。

 そして、そのリルとジョーイのやり取りをまた遠くから見ているものがいた。
 キノだった。