「あの、やはりこれはジョーイのもの?」

 ずれたメガネの奥のキノの不安な目が、ジョーイの反応を探っている。

「ああ、そういえば俺のだ。わざわざ届けてくれてありがとう」

 わざとらしかったかなと思いながら、ジョーイはその雑誌を手にする。

 キノは戸惑った目をむけながら、そわそわしていた。

「あの、余計なことかもしれませんが、印で囲んであったところ、今日そこへ行くつもりですか?」
「えっ、どうしてそんなこと聞くんだい?」

 キノは何かを知っているのだろうか。
 彼女の行動は常に普通ではない。
 ジョーイは動揺して、唾をごくりと飲み込んでいた。

「いえ、その情報誌にそこで春の夜桜祭りがあるって書いてたから行くのかなって思って」

 ジョーイは雑誌に目を通した。
 確かにキノの言った通りのことが書いてある。
 あの辺りの街路樹は桜が植えられていた。
 それがライトアップされ、この日だけ大通りの車の出入りを禁止して、歩行者天国となるとあった。

「今、桜の見ごろだから夜桜もきれいでしょうね」
 キノは話を繋ぎ合せるように言った。
「まあ、そうだろうな」
 無難に返事したが、ジョーイの心は穏やかではなかった。
 それが声にも現れて、あまりいい印象に聞こえなかったのかキノはまたおどおどしだした。

「あっ、すみません。長々とお話をして。それじゃ失礼します」
「ちょ、ちょっと待って」