お兄ちゃん、だめ... そんなとこ…かじっちゃだめ…

「未、央」


切なさを漂わせる瞳が揺れるのが分かった。

その目に映る私は今にも泣き出しそうな顔でお兄ちゃんを見上げていた。


「未央ー?隼先輩ー?」

リビングから渚の声がする。

お兄ちゃんがパッと私から離れて何もなかったかのように笑った。


「それ、俺が買ったやつ」


ザクロを指差して笑う唇はやっぱりザクロの実みたいに赤くって。

震えそうな体を抱きしめて、目を伏せた。

「そう、なんだ。勝手に切ってごめん」

「いいよ。渚が待ってる。俺も手伝うよ」

「ありがとう。お兄ちゃん」


お兄ちゃんが紅茶とザクロの実を運んでいなくなると、私はその場に座りこんだ。


怖くて、怖くて、仕方なかった。

叫ぶのを我慢したのは、渚がいたから。
本当は泣いて叫んでしまいたかった。



私はまだじわりと滲む傷口を見つめながら、僅かに震える唇を噛み締めた。