「オレさ、大阪の高校行こうかと思ってるんだよね」



――何かの冗談だろうと思った。



中学3年の冬休み。


この9年間ほぼ毎日そうしていたように、
あたしたちは章太朗の部屋で勉強していた。



ストーブで暖められたぬるい空気のせいか、

それともただその言葉を受け入れたくなかっただけなのか、


あたしは、その言葉をすぐには理解できなかった。



「大阪…ってなんで?」


「サッカーのさ、推薦で。
向こうの強豪からオファーが来てるらしくて」



「そう…なんだ…」



小2から地元のクラブチームでサッカーを始めた章太朗は、
数年間でみるみる頭角を現して、
今じゃ地元のちょっとした有名人だ。

そんな章太朗に、都会の強豪校からオファーが来るのは全然不思議じゃない。




…だけど…




「大阪、行くの?」


「ん、まぁ行けたらいいなとは思う。」


「ここから通う…訳ないか」


「ばーか。片道どれくらいあると思ってんだよ」


「あはは…だよね…」