「Kana!
喉大丈夫か!」
ふと風に吹かれながらたそがれていると、息を切らしながら走ってきたリーダーに声をかけられた。
必死な顔のリーダーを見てふと笑みが浮かぶ。
必至だなぁ…
「どうしたの(笑)
そんなに必至に走ってきて…」
「いや、急にいなくなったから。
心配して!
喉、痛いのか?きついのか?」
私は幸せだ。
こんなにも私のために走ってきてくれる人がいる。
こんなにも大切にしてくれる人がいる。
「大丈夫だよ。
あれぐらいじゃ苦しくなったりしないよ。」
「そっか。
お前、本当に強いよな。
あんなに歌いこんだのにまだ大丈夫なんて。」
「こう見えてね。
一応プロですから!」
「そっか。」
そういうと、私の隣に立って同じように遠くを見つめるリーダー。
何も言わない。
何も話さない。
何もない空間が広がっている。
「また、あの人のこと。
考えてたのか?」
「え?」
「正直、今回の曲。
ちょっとお前にとって歌うのはきついかなって思ってたんだよな。
メンバーが作った曲ではあるけど、お前の考えている気持ちとか状態になんかしっくりと来ているかなって思っててさ。
だからちょっと…」
「大丈夫。
皆が作ってくれる曲は本当にありがたいし、いつも大切に歌ってるよ。
ちょっとね、ちょっとだけ。
いつも歌ってると浮かぶんだ。
もう何年も経つのにね。
いまだに思い出しちゃうなんて変だよね。」
いい加減過去にとらわれないで、前を向かなくちゃいけないのに。
今でもこうして過去にとたわれているなんて私はまだ子供なのかもしれないな。
「別にいんじゃない。
俺はそんなKanaの歌にさ、声にさ、惚れたんだよ。
そんなお前とだからバンドを組みたいと思った。
俺らは皆、お前とお前の気持ちを乗せた歌を届け続けたいと思ってるんだから。」
「ありがとう…。」

