恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

商品会議があった次の日以降、森崎さんと安田さんはわたしたちメンバー抜きで勝手に打ち合わせをするといっては席をはずす時間が長くなった。大上部長はじめ誰もそのことには触れないし、話もしない。

大泉さんは大上部長に頼まれた資料作りをしていて、わたしとあおいさんが二人で書類整理をしていた。

「あの二人、どうして別行動しているんでしょうか」

「いずれわかることよ、椎名さん」

あくまでも同じ部署にいることを悟られないようにする配慮をしながらあおいさんが答える。
納得いかないし、そこまで露骨に協調性を無視しなくてもいいのに、と思いながら仕事をしていた。

定時をすぎ、受注発注の作業を終えて帰ろうとエレベーターに乗ってドアを閉めようとしたとき、ちょうど大上部長が駆け寄って滑り込むようにエレベーターに乗った。
大上部長と二人っきりになるのは久々だ。

「森崎さんと安田さんのことなんですけど」

「自分の仕事を遂行しろ」

冷たい反応。これだ。『カントク』にいるときにみせたしぐさだ。

「自分の仕事を遂行しろといわれても、あんなバラバラな状況で一つの仕事さえもまとまらないじゃないですか」

「お前はお前の仕事をしろ。以上だ」

「でも……」

これ以上何をいっても大上部長がつっかかってくることはみてわかることだ。
でも、何かしたいという気持ちは日々、膨らんでいる。

「何か得策はあるのか」

「得策も何もないですけど」

「続けろ。いいな?」

今の部署でみせるまなざしではなく、メガネ越しに睨みをきかせている。

「わたしのことはいいんですが、それよりも大上部長があの二人から受ける精神的負担になるんじゃないかって思って」

「心配してくれるのか」

「ええ、まあ。一応部下なので」

そういうと、くすっと笑い、頰にキスをした。

「安心しろ。少しはチャージできた」

1階エントランスホールへ到着したエレベーターのドアが開く。

「それでは椎名さん、お疲れ様」

と優しく声をかけて大上部長は先に降りていってしまった。

あの変わりっぷりはなんだろう。
それよりも隙みてキスするなんて。