恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

フロアを出て、一緒に来たエレベーターに乗る。
あおいさんからもらった資料によれば、大泉さんは今年社会人2年目だ。
資料によると、大泉さんが入社したときは、同じ篠崎グループの子会社、エスエヌゼットコーポレーションの営業部で営業事務を行っていたそうだ。

今まで後輩の女子はいたけれど、後輩だけでなく先輩にもどう扱っていいかわからず仕事上以外のことには首を突っ込まない、逆に突っ込ませないようにしてきた。
そのツケが『カントク』にいったときに同じ部署の人間の冷たいまなざしのまま送られたのだが。

わたしの素性なんか知らない大泉さんはしょっぱなから慕ってくれるなんて、ありがたい。
でも、やっぱり後輩とどう距離をとっていいかわからず、何を話せばいいのか悩んでいると、

「前に所属してた部署があまりにもきつくて。今回、ここに配属になってホッとしたっていうか」

と、大泉さんが話しかけてきた。

「そうなんだ」

わたしの場合はわけのわからない部署に配属されて、さらに仮の姿で仕事をしなくちゃいけないという任務だから余計に何をやっているのかわからなくなりそうだ。

エレベータが1階ロビーに到着する。
他の部署の社員のひとたちにまぎれながら、IDカードを玄関ロビーの出入り口にある勤怠システムボックスにかざして通過する。
もちろん通常の黒いIDカードは身元がばれてしまうので、特別につくってもらった専用の白いIDカードだ。

外に出て潮風を浴びながら駅方面へと歩く。

「椎名サン、電車ですか?」

「え、あ、ちょっと歩いたところに住んでるから」

さすがにホテルに住んでいるんだよ、とはいえない。

「そうですか。拙いところがあると思いますが、よろしくお願いします」

丁寧に頭をさげる。どこまでも律儀ないい子なんだ、と感心する。
わたしもそんな時期を過ごしたことがあったはずなんだけどな。
どうして地味にひねくれてしまったんだろう。

「大上部長、かっこいいですよね。仕事できそうで」

あの大上部長がかっこいい、かあ。
実は羊の皮をかぶった狼なんだよ、といいたかったけれど、

「上司には目をつけられないように仕事しなくちゃね」

と、さりげなく言うと、

「そうですよね。また仕事キツくなるのは勘弁なんで」

といって、それじゃまたと、大泉さんは手を振って駅まで走っていった。