恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

「求人雑誌も入ってるな。うちの部はそうとう嫌われたものだな」

無造作に入れた書類のなかからもらってきた無料求人誌を手にしている。

「ちょ、ちょっとそれも見ないでくださいよ」

「今、仕事を調整中だ。それまでは一緒に働いてもらう」

「……わかりましたよ」

「やっぱり聞き分けのいい子だな。椎名萌香」

そういって大上部長はくすっと笑う。
備え付けのタンスの引き出しやクローゼットのなかに書類や衣類を入れ、空になったダンボールをせっせと大上部長が片付けてくれたおかげでごちゃごちゃしていた部屋が住みよい空間へと変化した。

「ありがとうございました。これで明日から暮らせます」

「俺じゃなく他にもお礼をいうんだぞ」

はい、と軽くうなづく。
顔をあげた一瞬垣間見れた大上部長の作られていない笑顔に、わたしはどきっと胸を打つ。
それじゃあ、また明日な、と椅子に置いたスーツの上着を羽織りながら大上部長がつぶやいたので、入り口まで送ると、

「忘れてた。引っ越し祝いだ」

というと、大上部長は唇に軽くキスをした。

「だ、だから、こういうことがっ」

「嫌だったら俺を部屋に通さないだろ」

くすっと嫌味に笑うと、大上部長はまたな、といって部屋から出て行った。

そういうところが気に食わないのよ。
どうしてわたしにばっかりそんなことするの。

カバーがしわになってしまったけれど、そのベッドにまた横たわる。
ベッドから見える窓からの夜景が美しい。
こんなところに住めるだけでもありがたいっていうのに。

変な気持ちだ。
嫌いになりたいのに、ますます嫌いになれない存在になってきているようだ。
少しずつ大上部長のペースに慣れそうになっている自分がいる。
まだ何も仕事していないのに。