恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

何食わぬ顔で部屋に戻る。
すでに大上部長は自分の席につき、仕事をしていた。

残りの伝票処理を行いながら、頭のなかは引っ越しのことでいっぱいだったけれど、なんとか仕事を終わらせる。
相変わらず大上部長は無言でこちらをみているのが気になったけれど。

あおいさんが就業後に部屋に戻ってきて、さあ、引っ越しをお手伝いいたしますわよ、とはりきっている。
横目で大上部長をみても、何の反応もなく、あおいさんに連れられ、会社を出た。

会社の裏にある大通りにトラックと赤いスポーツカーが横付けされている。
赤いスポーツカーはもちろんあおいさん所有のもので、トラックは会社所有のものを借りてきてくれて、トラックの前ではグレーの作業着を着た戸塚さんと鈴井さんが待ち構えていた。

あおいさんの運転するスポーツカーに乗り、自宅へと向かう。

「一人暮らしならあまり荷物はないわよね」

「……はい」

「どうしたの、さっきから浮かない顔しているわね」

まっすぐ前を見据えつつ、あおいさんはわたしに言葉をかけた。
女性からでも助手席からみるその横顔は素敵だな、とドキっとさせられる。

「『カントク』という仕事は秘密な仕事なんですよね」

「ええ、そうだけど」

となると、やっぱり女の武器みたいなものを使って仕事をするってことなんだろうか。

「あおいさんもつまり、その」

「自宅についたわよ。まずは荷物を運ばなきゃ」

といって先に車から降りて後からきた戸塚さんと鈴井さんに手をふって合図をした。
肝心なことは後回しか、と思いつつ、あおいさんとともに自宅へいく。

それほど荷物があるわけではないけれど、家電はホテルには持っていけないのであおいさん所有の倉庫へ一旦預けてもらえることになった。
ダンボールに洋服や仕事関係のものをあおいさんとともに詰め込んで戸塚さんと鈴井さんに運んでもらう。

荷物もなにもなくなった部屋を掃除しながら、この部屋の思い出を振り返る。
いっても津島に抱かれたぐらいで特別思い入れもない部屋だった。

荷物を搬出し、あおいさんの車の乗ってホテルへ少しずつ近づいていく道すがら、これから自分は『カントク』への一員になっていくのか、とまるで他人事のようで、車内の窓から流れる夜の景色をみながらぼんやりと考えていた。