恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

『カントク』の部屋から出て、エレベーターに乗ったとき、上着のポケットに忍ばせておいたメガネとバレッタをとり、髪の毛を後ろにとめ、メガネをかける。

やっぱり社内ではこの格好になるのが一番落ち着く。
この姿のおかげで今までは自分をさらけださずにすんだのに。ついつい部長なのに声を荒げてしまう。
いろいろ考えて動いてもらっているのに、どうして反抗してしまうんだろう。

コンビニでもいこうと思って本社のエレベーターを降り、他の社員にまぎれるようにしてエントランスへと流れると、津島と野村加奈が親しげに受付のカウンターで話しているのをみかけた。

「萌香。元気にしてるか」

紺色のみたことのないスーツを着こなしていた津島が声をかけてきた。
受付ブースのなかに座っていた野村加奈は営業スマイル全開でこちらへ挨拶している。
軽く二人にお辞儀して二人のもとへと離れた。

もうコソコソと二人、会議室で仲良くする必要はないからって昼間っからイチャイチャしなくてもいいのに。

「おい、返事しろよ。さぞかし『カントク』で絞られてるんだな。あー、どんな仕事やってるか知りてえなあ」

と、後ろからえらそうに声を高らかに話す津島を無視した。
思いっきり閑職に向かってますよ、と言いたかったけれど、もしかしたら体を使った仕事になるのかもしれないといったところで笑われておしまいになるんだろう。

ちらりと守衛室をみると、横尾さんの姿はなかった。
本社を出て商業施設内に入るコンビニに寄り、ペットボトルのお茶とおにぎりを買い、商業施設内の中庭に出て、近くのベンチに腰をかけて味気ないお昼をとる。

中庭には等間隔に置かれたベンチにスマホ片手にコーヒーを飲んでいるネクタイを締めたサラリーマンや商業施設内で買ったと思われるお弁当を食べているOLさんの姿がいて、ひとときの休息をとっていた。
この人たちも午後からは面倒な仕事が待ち構えているのかな、と思いながら早口でおにぎりを食べ、お茶で流し込む。

帰りたくないな、と思いつつ、重い腰をあげ、『カントク』のある部屋へと向かう。
もちろん、『カントク』へ行く地下からのエレベーター内でメガネとバレッタをはずし、気合いをいれた。