恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

受付のカウンター前を通り過ぎる。
すでにひとはおらず、受付の明かりは消えていた。

今頃、野村加奈はあいつとデートでもしてるんだろうか。
あんなどうしようもない男と勝手にいちゃいちゃしていればいい。

わたしには恋人よりも仕事があるんだ。
仕事を強調したわりに、自信がなくなる。
大上部長監視下のもとで『カントク』で仕事をしなければならないなんて。

せっかく仕事が楽しくなると思っていたところだったのに。

わざと足音を立てながらエントランスから会社を出て、商業施設へと足を進める。
想像も絶するような場所へ潜りこんだあと、ようやくひとの匂いがとおる場所へ出たような気がした。

いろんなショップを歩き回るだけで買い物客の楽しそうな顔をみるたびに全身の血が巡ってきたのか、会社の中にいた自分は心が凍っていたのかと思うぐらい、気持ちが穏やかになった。

夕食の食材でも買おうとしていたところ、無料雑誌のラックがあることに気がついた。
数冊、情報誌をとり、駅へと向かう。

すでに停車した電車に乗り、自宅へと戻る。

電車に乗っていても朝から先ほどまで夢をみているかのようだった。
なんでわたしはあの『カントク』の中へかこわれてしまったんだろう。
それよりもあの大上部長の態度が気に食わない。
どうしてわたしに対して押し気味にくるんだろう。

テーブルに惣菜の袋とともに情報誌を並べた。
求人情報誌だった。

椅子に腰掛け、ようやくメガネを外し、テーブルの上に置く。
メガネを外すことで今日の自分の荷物を降ろした気持ちになる。

「早く新しい職場、みつけないと」

求人情報誌をてに持ち、ペラペラとめくる。
未経験者歓迎とあるけれど、結果足を引っ張ってしまいそうだよな、と思い、求人情報誌を閉じた。

本を閉じたはずみで下にあった封筒がテーブルから落ちる。
床に落ちた封筒をみると、大家さんからわたし宛のものだった。
中身を見て驚愕する。

区画整理のため、マンションを退去してほしい、との文章。

嘘、聞いてないよ。