恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

強引なくせに、やわらかなキスだった。
大上部長は驚きの反応をみせているであろうわたしの顔を物珍しそうに眺めている。

「あの、またキス……」

「なんだ。足りないのか?」

そういってわたしの顔をのぞきこみ、しかたないなとまた指であごを持ち上げられそうになったので首を横に振った。

「そうじゃなくて、どうしてキスなんてするんですか!」

「理由が必要なのか? キスをすることに」

「理由って。普通、キスするってことは」

大上部長の顔をじっとみた。
物怖じしないその姿にわたしは落胆する。

「相手のこと、好きにならないとしないんじゃないんですか?」

「さあどうだろうな。したいからすることもあるんじゃないのか」

「……そんな理由って」

ありえない。
好きでもないひととも簡単にキスするってことなの?
わたしの思いも無視して大上部長はわたしから離れた。

「さ、仕事だ。テーブルの前に座れ」

大上部長は自分の机から近い椅子を指示し、わたしはしぶしぶ座る。
棚の中からダンボールを取り出し、広いテーブルの上にどかっと音を立てておいた。
さらにご丁寧に新品のノートパソコンもその隣に置いてくれた。

「おまえの仕事はこれだ」

ダンボールいっぱいに無造作に詰められた各部署の経費の書類たち。
ほとんどがカントクから派遣されている班の社員が請求する書類だった。

「書類整理だ。初日にしてはまともな仕事だろ?」

「……はい」

こんな状況で気持ちを入れ替えて仕事をしなきゃいけないだなんて。
パソコンを立ち上げ請求書のソフトを起動させる。

地道な仕事をして各部署を支えている班のひとのおかげでこの会社はまわっているんだ。
その中にわたしも含まれるのかと思うと一瞬ワクワクしている自分がいる。

いかん、いかん。
こんなところに閉じ込められて指示しているだなんてやっぱり社内の墓場なんだ。
一刻も早くこんなところから脱出しなくちゃ。