恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

「俺の指図通りに動くんだな」

「……はい」

「じゃあ手始めに」

と、長く太い人差し右指の腹がわたしのあごを捉え、くいっと指をあげた。
大上部長が視界に入り、メガネの奥の温かみを感じない瞳で自分の心を見透かされているようで怖くなった。

「二人っきりっていうのはどういうことかわかるだろ」

大上部長はわたしの間抜けであろう顔を見下ろしながら、穏やかに言い切る。

きっと大きな声で叫んでも聞こえないんだろう。
そうして今までの部下を従えてきたのだろうか。
大上部長の息が顔にかかる。思わず目を閉じた。

「しかし驚くな」

大上部長の声で目を開ける。
そこには口元をゆがませているがメガネの奥は鋭く光っていた。

「えっ」

「ひとつにくくった髪の毛にメガネ姿ってのがな」

そういってあごから指を離すと、わたしの鼻先を指差し、大上部長はクスクスと笑っている。

「これはわたしにとってのトレードマークであり制服みたいなものなのでいいんです」

「全然似合ってない。大会議室にいたおまえは今のような格好してなかった」

確かにあのときは髪の毛をおろし、メガネはかけていなかった。
前の彼と会っていたときはいつも素の自分を出していたからだ。
気がつけば大上部長の顔から笑い皺が消え、獲物を捕らえるようなきつい目つきをした。

「明日からこの部屋に入る際はメガネとって、髪型も変えてこい。これは命令だ」

「勝手に決めないでください」

「ここを収めているのはこの俺だ。えらそうなことばっかり言ってたらお前の居場所なくなるぞ。それでもいいのか」

「……わかりました」

「聞き分けのいい子だと聞いていたけど、やっぱりちゃんとしてるんだな」

「……くっ」

「褒美だ。椎名萌香」

そういうと、すっと顔が近づき、大上部長の唇がわたしの唇に軽く触れた。
優しくついばむような、そんなキス。
そんな不意打ちにキスするってどういうことなんだよ。