恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

わたしの言葉にカッとなったのか、大上部長は組んだ両手を解き、両手で拳をつくって机の上を叩いた。
あおいさんはそんな陰険な状況でも口を手で隠して肩を震わせながら笑っていた。

「まあ。意気込みがちがうわね、萌香さん」

完全に笑い者にされている。
やっぱりわたしはこんなところにいる器じゃない。

「で、最後はおまえ、自己紹介しろ」

大上部長はわたしを指差し、あごをくいっと上げて指示する。
自己紹介なんて。
この中のメンバーは誰一人わたしのことを知ってるんだろうから今更自己紹介したからって和やかモードになれるわけでもない。

「名乗る必要なんてない。わたしはカントクから這い上がってみせるから」

「それだけか」

大上部長の言葉にシラを切る。
新しい部署で頑張りますとフレッシュさをアピールするのかと期待していたのだろうか。
バカバカしい。
こんなうさんくさい部署で会社人生を終わらせたくはない。

「最初から飛ばすなんて、さすがだわ。こんな方、はじめてじゃないかしら」

「気に入ったぞ。椎名萌香」

あおいさんと大上部長はそろって目を合わせて頷いている。
さっきからずっと気になっていて思わず口にした。

「だから、さっきからフルネームで呼ばないでください」

「要求か。大口叩く前にきっちり仕事をしたら考えてもいい」

大上部長はそういうと両腕を組み、さらに足を組んでふんぞり返るように座り直した。

「仕事をする前に、まずはIDを出せ」

「何するんですか」

「いいから。指示通りにしろ」

大上部長が指をパチンと鳴らす。
大上部長の脇をかためていた武道派の二人がわたしににじり寄ってきた。
細身とはいえ、二人の男性にかかればわたしはどうなるかわからない。
びくっとしていると、あおいさんが目の前にやってきて武道派の二人を制した。