恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

「わたしを監視していただなんて。どういうことですか。わたし、なにも悪いことしてませんけど」

わたしが荒々しい口調でまくしたてると、隣にいた横尾さんが怒られた番犬のようにシュンと背中を丸めて小さくなっていた。

「説明はあとでゆっくり聞かせてやる。さ、自己紹介の続きだ」

わたしの怒りをおざなりにして、大上部長は自分のペースで話を進めている。
わたしだけ、この空間のなか、置いてきぼりだ。

「続きって、ちょっとどういうことか説明してください!」

「篠崎あおい、ここの課の秘書と兼任で社長秘書だ」

聞く耳を持たず、わたしの言葉を遮り、無視しながら大上部長は話し始めた。
女性はわたしをみながら、肩に流れた長い黒髪を白く細い指先で後ろに送っている。
道理で美人だと思った。秘書らしい品格が体にも声色にも出ている。

「萌香さんが入ってくれていい雰囲気になりそうだわ。よろしくね」

ちょっと待った。
さっき、社長秘書っていっていなかったか。

「あの、どうして秘書さんがここに? 篠崎ってまさか」

大上部長は軽く咳払いをしていた。

「篠崎地所グループの社長令嬢だ」

どこかで見た気がすると思ったらそういえば社内報に顔写真が載っていた。
確かあの記事は新たな人材確保に関する提案だった気がした。

だからってどうして社長秘書がこのカントクにいるっていうの?

「そんな大げさにおっしゃらないで。ただの社長の娘ですわ。萌香さん、女同士仲良くしましょうね」

「安心しろ。おまえの大好きな女子の派閥争いなんてないから」

「そんなこと望んでません」

どうせささいなことで派閥が起こるぐらいなんだから、こんなことで波風を立たせたくはない。
かといって、このカントクで仕事なんかしたくもなかった。