恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

薄暗かったモニターのある部屋を抜けて、部屋の奥にある扉をノックして中から声がした。

「失礼します」

ドアを開けると、目の前の大きな窓はブラインドがあげられ、一転してまぶしい光が部屋にさしている。
10人ほどが入れる部屋には窓際に大きな茶色の机がひとつ、入り口には低めの黒いテーブル、同色の皮のソファの応接セットが並んでいる。

茶色の机の前に座っているのは大きなチェック柄のネイビーのスーツ、サックスブルーのシャツにグレーのネクタイ。
一週間前にIDパスケースを届けたときとは真逆であんなに優しげだったのに、今の雰囲気に差がある。
大会議室で出会ったときと同じ、スクエア型のメガネをつけて机の上で両肘をつき、祈るように指をクロスさせている。

男の両脇には二人の黒のスーツを着た男性たちが姿勢を正して無表情のまま立っていた。
机と応接セットの間に立っているのは、彩を添えるようにピンク色の体の線がくっきりしたスーツに腰までのびる黒髪の女性がいる。

「遅かったな。椎名萌香」

わたしが部屋に入ると机に座る男が甘く低い声を発していた。

「事態が全然把握できません。どうしてわたしがカントクなんかに」

「指名してやったんだから、感謝しろ」

指名? どうしてわたしがカントクに指名されないといけないわけ?
今までずっと事業部で仕事をしてきたのに。

「指名ってどういうことですか! 何かの間違いですよね。早く戻してください!」

わたしの訴えにピンクのスーツの女性が目を丸くし、すぐに目を細めた。

「うふふ。血の気の多そうな子ですわね」

ピンクのスーツの女性がこちらをみて親しみを込めているのか、微笑んでみせている。

「だろ? この課にぴったりだ」

「勝手に決めつけないでくださいよ。何を勝手にわたしの進路を決めてるんですか。カントクに期待して入社したわけはありません」

「これはいい人選かもしれませんわね。大上部長、お目が高い」

両脇の男たちも無表情のまま頷いている。
それよりもその男が部長っていうが気になった。

「部長……、あなた部長なんですか」

「部長で悪かったな」

その男、大上部長は、さらりとかわすように返事をした。
こんなところに足を踏み入れるだなんて、騙されているんじゃないか。

「今すぐ事業部に返してください。わたしにはやりたいことがあります」

「おまえに事業部へ帰る理由はない。おまえの所属先はここだ」