恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜

お風呂からあがり、パジャマに着替え、髪の毛を整い、ベッドの脇にあるクローゼットの前で明日の会社へ着ていく服を選んでいた。

かといって華美な服は一切持っていなくて、だいたいが黒か灰色のジャケットに、ジャケットに見合う同色のスカートを合わせるぐらいだ。
装飾品は自由だが、わたしはピアスも指輪もネックレスもしない。

そのかわりといってはなんだが、メガネはしている。
会社の中では『自分』というものを押し殺して正体は明かさないようにしていた。

決して目が悪いわけではないが、伊達の黒縁メガネに肩までかかる黒髪を後ろで黒いゴムでひとくくりにしている。

会社の中では目立たないようにするためだ。
そのほうが気が楽だったから。

心の拠り所である津島には社内で会いたいし、話を交わしたいけれど、あとは会社という組織のなかで一緒に休日を楽しもうと社内サークル活動みたいなことをして仲間をつくるだの、友達をつくろうだのと思ってなかった。

案の定、こういう表向きな真面目キャラをつくって示しているおかげで、先輩、後輩ともにわたしのことをなんでもいうことを聞くしっかりモノの社員であるという印象を植え付けさせた。

仕事をしてきているだけ、チャラチャラした考えで会社に来たいなんて思っていない。

だけど、津島と会うときは、身も心も自由になろうと懸命だった。
メガネをはずし、髪の毛をおろして素の自分をさらけ出していた。

わたしというものをみせてきていたつもりなのに、やっぱり今考えてみたらいつもわたしはひとりぼっちだった。

これからは同じ部署とはいえ、会社の仲間として津島と接していく。

仕事に集中できるから結果、こういう別れ方をしてよかったのかもしれない。

それでも、急にからっぽになった気がして涙がとまらなくて、ポロポロと床に雫が落ちていった。