私は暇じゃない





 洋子はもう何をいったらいいかわからず黙り、智治もまた沈黙。
 否定しないのを見ると、逃げられないと思っているのか。言い訳があるのか。



「急用って水族館に行くことだったのね。なるほど。ドタキャンするなら前日からにして欲しかったよ。バイトの日程も調整して、あの駅で待った時間どれくらいだったか知ってる?二時間だよ、二時間。結構いろんなこと出来るよ」

「ちょ、っと、みちる。ここではちょっとあれだから、場所変えよう?ね?目立つから」

「ああ、嫌なの?そうだよね、だって亮平君もまこちゃんもいるし」

「えっ!?」



 帽子を被った男女がこちらを見た。それに智治も洋子もぎょっとした。

 ここから少し離れた席には、いつもの服装とは違う、亮平とまこちゃんが最初からいたのだ。まこちゃんが私に手をふるも、目は笑っていない。亮平は肘をついて智治のほうを見ていた。 その目は愚か者を見ているようだった。
 もちろん、お客からは男女の修羅場は注目を浴びている。



「ということで」



 まこちゃんらが立ち上がり、会計をしているのを見ながら、息をはく。



「私、浮気している男と今後付き合うほど暇じゃないので、別れましょう。さよなら二人とも」



 これが最後の笑顔。

 呆然とする二人は何か言いかけたが、私はそれを待つほど優しくないし、待つ理由もない。

 青ざめた洋子らから離れて、先に会計をしていたまこちゃんらに追い付く。まこちゃんの「次行こう次」と、「まだ食うのか」というそれに、私は今度こそ自然に笑えた。


 しかしまあ、と亮平とまこちゃんを見る。