――あたしの親友は、数年間行方不明でした。





日が落ちるのがずいぶんと早くなった十月、放課後の美術室。


あたし――峰さくらはスケッチブックに向かっていた。


デッサンのモデルは、中学時代からの友人菊池波音。


気分が乗らないことを理由に、日課である市民プールでの水泳を断念したところを捕獲して、付き合ってもらってる。


木の丸椅子に波音を座らせ、横顔をデッサンし始めてはや30分。


波音は文句も言わずに、もう暗くなってしまった窓の外を見てる。


そんな波音の頬を見つめつつ、常々たずねようと思っていたことを、あたしは口にしてみた。


「ね、波音」


「んー?」


「最近、好きな人でもできた?」


「……急にどうしたの?」


視線をこっちによこさないまま、波音は少しの沈黙を置いて問い返してくる。


質問に質問で返すのは反則だよ、といっても、波音はごめんね、というだけで答えてくれない。


たしかに、今まで波音にこんなことを聞いたことはないよ?


それは、波音にはずっと忘れられない人がいるんだと思い込んでいたから。