例えば星をつかめるとして


「……ありがとう」

考えるより先に、言葉が口をついて飛び出した。

やっと、遠くの星から目を離して、隣の星野を見る。彼は、私が礼を言ったことに驚いたのだろうか、目を丸くしていた。

「星、すごく綺麗。来れてよかった、って思う」

溢れ出したのは、今、何よりも正直な思い。

星野が、優しく目元を綻ばせた。

「嬉しいな。松澤さんが喜んでくれると、とても嬉しい」

──その、星明りのなかで微笑む姿が、なんだかとても自然で、言葉が詰まった。

彼は、星々に囲まれているのが当たり前で、しっくりくる。そういう存在なのだと、どんな言葉で説明されるよりも、わかった。

「……降るような星空、って感じだね」

いつの間にか視線を頭上に戻していた星野が、そう呟いた。

「松澤さん、地球からあの星たちが、どのくらい離れているのか知ってる?」

不意に、問いかけられて、私は首を振った。

「肉眼でも、270万光年も離れた星を見ることが出来るんだ。光の速さでも、270万年もかかるくらい遠くの光を、僕達は見ている。それなのに、手を伸ばせば届きそうに見えるって、不思議だよね」

「……そう、だね」

270万光年と言われても、私には想像もつかない。手が届くどころか、私が一生かかっても、辿り着けないような場所。